我々の身の回りは、モノで溢れています。
家の中には、スマホ、テーブル、鞄、包丁、洗濯機…外に出れば、車や自転車、信号機…空を見上げれば、飛行機。例を挙げきれないですね。
スマホ一つの中にも、金属、プラスチック、半導体、磁性体、液晶…様々なモノの機能性がぎゅっと詰め込まれています。
人類は、モノを開発し、それらの性質を理解し、機能性を制御・活用することによって、暮らしを豊かにしてきました。
物性研究は、”物質の性質を解明する”研究であり、科学技術の発展と人類の豊かな暮らしの実現のために必要不可欠です。
我々は、物質開発を軸として物性研究を進めています。
磁性体、超伝導体、交差相関物質など、様々な物質に興味をもって開発に取り組んでいます。
開発した物質が、いつか世界の常識を大きく変えるモノになったら、なんて想像するだけでワクワクします。
そんなことを夢見て、そして夢で終わらせないように、日々楽しく研究を行っています。
新物質開発と単結晶育成
一般的な固相反応法をはじめ、フラックス法、気相法、アーク溶融法、ブリッジマン法、中和滴定、トポケミカル法、水熱合成法、高温高圧合成法など、様々な化学的手法を駆使して新物質開発と単結晶育成に取り組んでいます。
特に水熱合成は、圧力鍋を用いた料理法と同じ原理の物質開発手法であり、温度、時間、圧力に加え、pH, 溶媒の種類・量など、広大なパラメータ空間での物質探索が可能です。
このような広大な空間は未踏の地であり、目的地を目指して進むことが困難である一方、未知の物質と出会える可能性を大いに秘めています。
実際に、この空間の中で、数々の新物質と単結晶の育成に成功しています。
新物質探索は、毎日失敗の連続で苦しいですが、そのぶん新しい物質に出会えた時の高揚感は何にも代え難いものです。
フラストレート反強磁性体
正方形の上には、反強磁性相互作用を満たすようにスピンを並べることができます。
しかし、正三角形にしたらどうでしょう。ある頂点で上向きか下向きか決められなくなってしまいます。
このように、構造上、相互作用を満たすスピンの配置を決められなくなることを、幾何学的フラストレーションと言います。
自然界はこのフラストレーションの問題に、実に多彩な答えを返してくれます。
極低温でもスピンが凍結せずふらふらと揺らぐ”スピン液体状態”を形成したり、あるいはフラストレーションを解消するために、120度構造を取ったり軌道・電荷・外場といった他の自由度と結合して秩序化したりすることもあります。
幾何学的フラストレート反強磁性体は、極低温まで残る大きな揺らぎを駆動力に、想像していなかった新しい磁気状態を実現しうる面白い物質系です。
カゴメ反強磁性体
正三角形を頂点共有することで形成されるカゴメ構造を有するカゴメ反強磁性体は、最も強いフラストレーションを持つ系です。
中でも、量子カゴメ反強磁性体は、零磁場基底状態における量子スピン液体状態の他、磁場中においても、マグノン結晶による逐次磁化プラトーの発現などが予想されている、量子多体状態探索のためのフロンティアです。
これまで理論・実験ともに精力的に研究が行われてきましたが、構造が複雑であるがゆえに開発が難しく、モデル物質が不足していることが研究の進展を阻んできました。
我々は、新しい量子カゴメ反強磁性体InCu3(OH)6Cl3, ScCu3(OH)6Cl3の開発に初めて成功し、物性測定を行い、磁場中量子多体状態として1/3磁化プラトーが実現することを明らかにしました。
既存物質のプラトー状態において物性評価を行うためには50 Tを超える超強磁場下における精密物性測定が必要であり困難でしたが、これらのプラトーは10 T程度の比較的低磁場領域で実現するため、比熱、磁化等のマクロな測定をはじめ、NMR, μSR, 中性子回折実験等のミクロな測定まで、多様な測定プローブを用いてプラトー状態にアプローチすることが可能になりました。
本研究を進めることは、これまで理論でしか予想されてこなかった磁場中量子多体状態に、実験的見解を与えるという重要な意義を持ちます。
我々は、1/3磁化プラトー状態における磁気状態の解明の他、極低温測定等を行い理論で予想された他のプラトーの探索を行っています。
我々は他にも、S = 1/2異方的カゴメ反強磁性体CdCu3(OH)6Cl2, S = 1カゴメ反強磁性体BaNi3(VO4)2(OH)2, S = 3/2ブリージングカゴメ反強磁性体Li2Cr3SbO8など、様々な物質の単結晶育成に成功しており、これらの物性評価も進めています。
超伝導体
高温超伝導体の発見は、物性物理学者の夢の一つです。
新しい超伝導体の開発を目指して、空間反転対称性の破れた超伝導体や、カイラル超伝導体、カゴメ超伝導体などの開発を行っています。